「自称ミュージシャン」と聞くと、なんだかいい年してフリーターをやりながら音楽活動に精を出している人というイメージが浮かぶ。世間では認められていないから”自称”であるのだ。 一方で「他称ミュージシャン」はどうだろうか。世間の人はあいつは本物のミュージシャンだ!と認めているが、本人は至って謙虚で「いや、僕はそんなんじゃないですから」と謙遜している絵が浮かぶ。 当の本人は音楽活動をしている自覚は毛頭ない。 彼の舌打ち、歩く靴の音、ため息の音。全てがこの世の人にとって、音楽に聴こえるのだ。 彼はクラシックが好きで頻繁にフルオーケストラのコンサートに行く。ただしそれはあくまでもオーディエンスの方で、本来であれば消費者に過ぎない。しかし、彼の場合は大きく異なっている。 曲と曲の間で多くの観客は咳払いをする。曲の最中に我慢していた分、一斉に行う。 彼もそのうちの一人だ。普通に咳払いをする。 ただ普通の人