百田尚樹の小説『永遠の0』が「パクリ疑惑」としてネット上で指弾されている。 私は調査報道に関わり、ノンフィクションも手がける、事実に立脚したものを書く人間である。そんな立場からは、「まあこういうものだろう」という、作者に対するやや同情的な思いと、「一線を踏み越えた作品だ」と危惧する思いとが相半ばする。本作は非常に巧妙な「小説」であり、だからこそ、大きな「危うさ」をはらんでいる。それが問題の本質だと私は考える。 まず、ネットで指摘されている「パクリ疑惑」について検討しよう。 事実をもとにした小説は史実をもとに構成せざるを得ないので、独自の取材を重ねるのでなければ、実際の戦闘については誰かの戦記・体験記を借りるしかない。実在の戦記の記述と同じ部分がぼろぼろ出てくるのは、作者の実力という、やや別の問題である。下敷きにした作品・作者への礼儀がきちんとできているかどうかが、「パクリ」という問題性のあ