岩井俊二の新作に夢中になる日が再び来ようとは。『花とアリス殺人事件』(2015)、そしてこのたび公開された『リップヴァンウィンクルの花嫁』の2本によって、そのキャリアは再び黄金期を迎えているようにすら感じる。故・篠田昇の弟子である神戸千木のカメラとの相性もバッチリ、映像や音楽の美しさは健在であるし、そしてやはり語り手としての個性は唯一無二だ。そのオリジナリティ溢れる境地に唸らされてしまう。 呆れるほどに面白い。現実と夢、光と闇、善と悪、喜びと悲しみ、といった二律の境界線上をフラフラと歩きながら、出発点からは想像だにしない場所に着地させる。それでいて、物語全体を破綻させない巧みな脚本術。コントロールし切れない部分(例えば唐突な赤いアルファロメオでの疾走)が魅せる発想の自由さも実に映画的だ。主要キャストである、黒木華、Cocco、綾野剛の3人の素晴らしさは、今作をキャリアハイと推したいくらい。