大切な人だから連れて行きたい店があります。おいしいだけではない、楽しいだけではない。共に過ごす時間を、お互い素になって「出会えた感謝と尊さに気づいた」と思えるひとときへ…静かに導いてくれる店。大切な人と同じときを過ごす卓上で提供されるのは、質素な振る舞いと長閑な時間のみ。装飾を削り取った「粥茶」をゆるりと堪能すれば、大切な人への想いが素直に伝わるものだと感じます。 「茶の湯」に通じる想い 行き交う車を豊かな緑が覆う「けやき通り」から細い路地へ。福岡城址へ向かう小道が“鍵の手”に折れたり丁字路を形成する、かつて城下町だった面影を遺す界隈に「万」は潜んでいます。街の中心部にありながら住宅が並び、蝉の声の中を通学の子どもたちが笑いながら駆けていく、そんな一画。夜ともなると程よい店の灯りが路地に洩れ、くつろぐ大人たちの姿を映し出します。一見、クールな空間ですが実に温かく人を誘う「万」の魅力は、一人