辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。 数十年前の話である。奈良県でバスに乗っていて、「せいぜいご利用ください」という車内放送に、おや?と思ったことがあった。聞き慣れない「せいぜい」の使い方だったからである。 私にとって「せいぜい」は、以下のような意味で使う語だった。「出席者はせいぜい5,6人だろう」のように、たかだか、やっと、という意味、「上司の説得は難しいだろうけどせいぜいがんばりな」のように、期待はできないだろうけどできるだけ、といった意味である。いずれにしてもプラスの意味ではない。ところが車内放送は明らかにプラスの意味で使っていた。今でも同じような車内放送はあるのかもしれない。 私の思い込みとは異なり、「せいぜい」の本来の意味は、「力の及ぶかぎり。できるだけ。つとめて。一心に努力して」(『