2008年、29歳になる年に富山へと帰郷した私は、家業である薬局に事務員としてお世話になることになった。戻ってきてすぐに仕事を与えられるという環境は大変恵まれているにもかかわらず、私はそれをなかなか受け入れられずにいた。 しかし私なんかよりも、都落ちしてきた未婚のアラサーで、処方箋にハンコのひとつもロクに押せない「社長の娘」という、微妙すぎる新人を受け入れる羽目になった薬局の職員さんの方が、よっぽどうろたえただろうと思う。シャチハタと実印の違いすら分からなかった私は、自分のポンコツさを払拭しようと、まだ「東京で雑誌編集をやっていました」風を吹かせようとしていた。 かつての同級生たちはほとんどがすでに既婚者か、結婚しようとしていた。帰ってきた当初は「アンタが戻ってきたら楽しくなるわ」と歓迎し、飲み会を頻繁に開いてくれたりした。しかし東京への未練を隠さず、「私でなくてもできる仕事をやらされてい