第1章 序論 1. 1 核磁気モーメントの発見 核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance,NMR)が初めて観測されたのは 1945 年であ るから半世紀以上も前である. 最初の発見から 1960 年代前半まで, NMR に関する多く の論文が Physical Review 等の物理学関係の雑誌に掲載された.1960 年代後半になっ て NMR は物理学者の興味の対象から離れ, “NMR はもう死んだ”とまでささやかれた[1]. しかし,その後,NMR は物質の構造や性質を調べるための極めて有効な研究手段とし て発展し,物理学,化学,生物学,医学などの広い分野で応用されている.1993 年の ノーベル化学賞が FT-NMR と2次元 NMR の業績でスイス連邦工科大学の Ernst に贈ら れたことは,NMR の有用性が広く認められたことを物語っている.N