アニエス・ヴァルダが幼少期を過ごしたベルギーのブルュッセルから程近い浜辺で撮影されたオープニング映像で幕を開ける『アニエスの浜辺』は、浜辺にいくつも打ち立てられた鏡が、作家自らの80余年に及ぶ生涯の煌めきを乱反射するだけでなく、世界を映す鏡としての"映画"の比喩でありながら、かつて目にしたことのないような新奇な浜辺の風景を創りだし、観客をアニエスの"浜辺"に一気に引き込んでしまう。 この浜辺における鏡の壮観なインスタレーションを観ただけで、映画の後半で触れられるパリのカルティエ現代美術財団の依頼で行ったというインスタレーション『島と彼女』展(06)が作家自らの"自画像"を描くという道筋を作り、それが自然に発展して本作に結実した様子が窺える。従来の作品でも示されてきたアニエスのシュールレアリズムへの傾倒と相俟って、現代美術シーンとの親和性の高さが垣間見えてくる。「人の心の奥には必ず心象風景が