『有限責任会社』(高橋他訳、法政大学出版局)を読んだ感想をノートに書き留めておきます。この本はデリダ‐サール論争におけるデリダ側の論考を収めたものです。 この翻訳書の「起源」を特定することはいささか困難で、底本はフランスの出版社GaliléeからのLimited Inc.ですが、そもそもこの本自体が英語交じりの破格なものであり、単純に「フランス語の書物を日本語に訳した」と言うことができません。加えてデリダ‐サール論争はもっぱら英語で繰り広げられており、さらにLimited Inc.は英語版(Northwestern University Press)の方がフランス語版よりも先に出版されています(前者は1988年、後者は1990年出版)。というわけで訳者たちは、英語版を参考にしつつ、フランス語版を日本語へ翻訳するという作業に取り組むわけです。ここでデリダが翻訳に関して独特な見解をもっていたこ