本ケースは,1960年代から70年代の男性ファッションのモンスターブランドであるヴァン・ヂャケット(「VAN」)と,その創業者の一人で「ファッションの神様」と呼ばれた石津謙介(「謙介」)を取り上げる。日本の男性ファッションは,VANと謙介無くして語ることはできないほど,重要な役割を担っている。ファッション業界だけでなく経済界でも「実は昔アイビーだった」という経営者は多い。高度経済成長期のVANの軌跡を辿り,その理念や戦略を紐解いていくと,栄華を極め倒産したブランドという面だけでなく,顧客体験となる場の創造,人とのつながりや一体感といったマーケティング戦略の先駆的な側面が見えてくる。本ケースでは,関係者のインタビュー,謙介に関する書籍,石津事務所や元社員のウェブサイトから,VANと謙介の価値を再評価する。 1. VANの誕生 VANの歴史は,1951年,謙介が大阪で立ち上げた石津商店から始ま