ズシン、ズシン、と、遠くから重くて低い足音が聞こえる。 日が傾き、向こうの山の陰に隠れてすぐ。私は身動きできず、山の真ん中の岩場で、その音を聞いていた。 私は、逃げ出したい気持ちを堪えて、ぎゅっと手を握りしめて膝を抱えた。 怖い、怖い、怖い! 本当なら、今すぐにだって走って逃げ出したい。でも、だけど、それはできない。 私は両足に鎖を巻き付けられ、両手にも枷をはめられている。 こんなんじゃ、走るどころか身動き一つとることもできない。 でも、この足音は、きっとあいつだ。 この山に住む、魔界の住人、トロール… あいつが、ここに向かってきているんだ…。 数日前、私の住む村の半分が、突然起こった鉄砲水で流された。 畑も家も、土砂と水でボロボロにされてしまった。 偶然そのとき畑で野良仕事をしていた父さんと母さんはそれに呑み込まれて氏んでしまった。 村の人たちは、ずっと昔からこの山に住むトロールの仕業だ