王様はロバの耳!と穴ぐらに向かって絶叫しなくてはいけなかった人の気持ちが最近はよくわかる。言いたくてうずうずするが言ってはいけないことが世の中にはある。それでもやはり、好きな女の顔に手をかけてマスクを取るときのあの感覚には、不思議な懐かしさと甘さがあるといいたい。あらためてこう言葉にしてみるときもすぎるが、それでも言わなくてはならないようななにかがそこにはあるし、ここにしか書けない。 話は2、3日前にさかのぼる。 「ていうか、この前のオメガラーメンは正直微妙だった」 「選んだ人がそういうこと言っちゃうかな」 「第一印象で、勢いで選ぶことって人生にはあるでしょう? ときには勢いが大事。勢いが評価される」 「ないわ」 「へぇ。つまんないね」 咲は芝生に敷いたレジャーシートの上に寝転んだ。頭上には新しい枝を伸ばしはじめた代々木公園の木々が揺れ、雲ひとつない空を縁取っていた。 まじめに、社会的距離