新型コロナの出現は世界を一変させ、人間社会の脆弱(ぜいじゃく)性をもあらわにした。「ウイルスVS人類」といった二項対立の構図でとらえたくなるが、遺伝情報を扱うゲノム研究を経て「生命誌」を提唱する理学博士の中村桂子さん(85)の思いはまた違うようだ。 生命誌とは、人間を含むさまざまな生きものの関係や歴史を整理し、私たちが「どう生きるか」を探るための学問。地球上には数千万種もの生きものが生息するが、その共通性や多様性を「ゲノム」をキーワードに解き明かしていくのだ。私たちはどこから来て、どこへ行くのか――。それが課題である。 さっそく尋ねてみた。新型ウイルスは“悪者”ではないのかと。すると中村さん、苦笑しつつ、「感染したら困るのはもちろん困るのよ。“良い子”とは言わないけれど、生きものとウイルスは大昔からのお付き合い。細胞のあるところにウイルスあり。ならばお互いうまくやっていきましょうよって」。