史上初の3冠新人登場、情緒あふれるホラー長編 日本ホラー小説大賞といえば、ホラー作家の登竜門として知られる新人賞。2019年に横溝正史ミステリ大賞と統合し、横溝正史ミステリ&ホラー大賞となった後も、新世代のホラー作家を次々と輩出している。北沢陶の『をんごく』(KADOKAWA)は同賞の大賞受賞作で、読者賞とカクヨム賞とあわせ史上初の3冠受賞を達成した話題作だ。 大正時代の大阪、商人の町として栄えた船場が主な舞台。主人公の壮一郎は裕福な呉服屋の長男で、商いは姉夫婦に任せ、画家としての道を歩んでいた。ところが妻・倭子(しずこ)とともに移住した東京で関東大震災に遭遇、倭子はその際に負った怪我がもとで命を落としてしまう。 悲しみに暮れる壮一郎は天王寺の巫女を訪ね、倭子の霊を降ろそうとするが、うまくいかない。「気をつけなはれな」「奥さんな、行(い)んではらへんかもしれへん。なんや普通の霊と違(ちご)