一昨年、惜しくも他界した英国のSF作家バラード。空想力を尽くして描かれる世界の極限状況と、その中に置かれた個人の行動と錯乱。その語り口とヴィジョンは、多くのクリエイターに強い影響を及ぼして来た。 本作の発表は八年前と遡るが、死後、日本語で最初に読める長編小説であることに変わりはない。実際、最初の一頁(ページ)から、読者は一気にバラードの世界に引き込まれる。ある日、ロンドンの高級住宅街で、突如として革命が起きたというのである。抑圧された民に、中産階級が打倒されたわけではない。高い学歴を誇り、豊かな資産に恵まれた住民そのものが蜂起し、あてのない破壊やテロ行為に走り始めたのだ。 BBCの前では大規模なデモが行われ、ナショナル・フィルム・シアターが放火される。テート・モダン美術館やヒースロー空港では爆破による死者まで出る。いずれも、知の伝播(でんぱ)や蓄積とビジネスの円滑な運営のためにつくりあげら