インドが国境を接する六カ国のなかで国際政治上最も重要なのは、中国との関係であろう。中印関係の火種の一つとして、まずカシミール問題を見ていきたい。カシミール問題とは、もともと英領インドからの分離独立時に帰属が未確定だったジャンム・カシミール藩王国の帰属をめぐるインドとパキスタン間の紛争である。現在カシミール地域は、インドが支配するジャンム・カシミールとラダック、パキスタンが支配する北方地域、それに中国が支配するアクサイチンと呼ばれる地域に区分される(図2)。 カシミール地域には三つの線があり、その一つは印パ紛争のときに引かれた停戦ラインで、1972年以降は管理ライン「LOC(Line of Control)」と呼ばれている。中国の支配地域との「国境」には実効支配線という意味の「LAC(Line of Actual Control)」があり、もう一つシアチェン氷河(地方)には「実際の地上陣地線