母親が死んだ。ずっと体調が悪かったのに無理して働いて、病院に行ったときにはもう手遅れの、よくあるやつ。 父親はすでに他界しており、兄弟ふたりが残された。俺と弟。どっちもアラサー、独身。 弟は新卒で務めた会社を数年で辞め、今は長い長い充電期間。つまりひきこもりである。退職理由は社内で受けたいじめだという。弟が語ったいじめは凄惨で、精神を病むのも無理はなかった。……その話が本当ならば。 弟は昔から、息をするように嘘を吐いた。所々に綻びはあるものの、妙にリアリティを持った物語を創作するのが上手かった。すぐに咎めて問い詰めれば、目を泳がせて言い訳をした後ではあるが、嘘を認めて謝る『ことも』あった。不気味なのは、時間が経つにつれ、弟の中で嘘が真実になってゆくことだった。 例えば、弟が文房具をなくしたとする。どこにやったと父に聞かれて、弟は「クラスメイトに貸したまま、その子が転校してしまった」と答える
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