日本画家、松井冬子が描く世界は痛ましく、強く、美しい。昨春、東京芸大大学院を修了し博士号を取得、心新たに取り組んだ新作は「ナルシシズム」がテーマという。現在、東京で個展を開いている松井に制作について聞いた。(黒沢綾子) 盛りを過ぎようとしている水仙の花が、狂おしく朽ちていく。自らを追い込むように、痛めつけるように。説明するまでもなく、新作「Narcissus(ナルキッソス)」はギリシャ神話にちなんでいる。美少年ナルキッソスは復讐の神ネメシスの手により、水面に映った自分に恋して身を滅ぼしてしまう。「他人とのコミュニケーションがうまくいかない現代的な病であるナルシシズムは、ナルキッソスの悲しみに通じる」と松井。 ただ、ナルシシズムを単なる自己陶酔やうぬぼれではなく、もっと多面的にとらえたいという。「例えば私たちはモードチェンジをするようにコロコロと人格を変えて外と向き合い、自分を守る。一方で、