それはもう、三十年ほど前の話になるだろうか。 子供の頃というのは、日常的な生活の中で不可思議なものを見たり、奇妙な気配を感じたりといったことがしばしばあるのは、誰しも同じだと思う。 その理由には様々あるだろうが、大人に比べて感覚が研ぎ澄まされているのかもしれないし、既存の余計な知識には左右されずに世界を見ているのかもしれないし、子供の時だけに持ちえる何らかの能力が存在するのかもしれないし、あるいは、実はそんなものは見たり感じたりしてはいないのだけれど、成長段階での様々な情報や記憶が、例えばテレビや映画や、もしくは想像や妄想なんかの情景が自分の過去の体験とごちゃ混ぜになってしまい、後に形成された、本当はありもしなかった偽物の記憶として、子供の頃の体験や景色が歪に変形し、奇妙に彩られてしまっている結果なのかもしれない。 ぼくのあの日のことが、そのどれにあたるのかは、正直いまでもよくわからない。
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