■生活への美意識で虚飾を撃つ こんなに何事も忘れやすい世の中で、奇跡のように人々は向田邦子を忘れなかった。飛行機事故で逝って30年。本は、いまだ盛んに読まれている。 世評の最も高いのはエッセーで、無類の記憶力で描いた昭和戦前の中流家庭の生活、家族のぬくもりは『父の詫(わ)び状』(文春文庫・530円)に収められている。しかし、この本は遠景に置いておこう。今となっては理想の〈平均的日本人の家庭〉に育った彼女は、そこから何を得て成人したのか。それは、昔はどこにでもあった〈生活の美感・美意識〉だったと思う。 その美感、美意識で彼女は現在の日本人の虚飾、思い上がり、自己満足、一点豪華主義のような卑しさを撃った。たいていは週刊誌連載のために書いたものだが、決して低レベルではない。中でも最も辛辣(しんらつ)な「黒髪」「拾う人」「特別」などは『無名仮名人名簿』に収められている。 ■“人間通”に磨き こうし
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