永田和宏さん(細胞生物学者・歌人) 47年生まれ。細胞生物学者で歌人。著書に『タンパク質の一生』など、歌集に『風位』(迢空賞)など。=大上朝美撮影 ■「自己」「非自己」飛躍が新鮮 『免疫の意味論』 [著]多田富雄 (青土社・2376円) 僕は細胞生物学、多田さんは免疫学と専門分野は違いますが、僕は短歌を、多田さんも詩の雑誌を作ったり能を書いたりで、お互い「変なこと」をしている同族のようなところがあった。この本は1993年に出てすぐ、雑誌に書評を書きました。その年の大佛次郎賞を受賞されましたね。 専門外ですが、我々は免疫のメカニズムは知っている。単純に言えば、免疫とは外から異物が侵入したとき、それをやっつける防御反応ですね。だから免疫とは、異物認識のメカニズムだと一般には考えている。ところがこの本で驚かされたのは、免疫とは異物ではなく「自己」認識のメカニズムなんだということ。免疫細胞が常に体
世阿弥の世界 [著] 増田正造 能に興味を持ったのは、二十年ほど前だが、様々な演劇論を読む仕事のなかで、『風姿花伝』の面白さ、世阿弥という人物の魅力に出会って驚かされた。 本書はその興味をより広げてくれる。 能を「極北の演劇」と著者は記す。それが強く印象に残ったのは、人物の個性や系譜、社会的背景にまったく興味を持たない劇作法だと分析されるからだ。「男性そのもの」「女性の慕情そのもの」を抽象化して表現する。いま演劇の課題はそこにあると私は考えている。というのも、グロテスクな人物造形が、この国の現代演劇の主流としてあり、そこからどう遠ざかり、また異なる演劇を試みるかというヒントが本書にあるからだ。たとえば、死者が、生きる者と同じ空間に登場しても許される、世阿弥が発明した「夢幻能」はきわめて豊かな演劇的な領野だ。 本書はそうした世阿弥の魅力を穏やかな筆致で語りかけてくれる。 ◇ 集英社新書・82
「風俗に行こうかな」やら「都知事閣下」やら。キャラが立った受賞作家の発言のおかげで、芥川賞が世間の注目を取り戻しつつあるように見えます。今回はそんなムードに便乗し、“純文学”の世界に浸ってみました。 ■ジュンク堂池袋本店 鎌田伸弘さんのおすすめ (1)岬 [著]中上健次 (2)或る「小倉日記」伝 [著]松本清張 (3)カクテル・パーティー [著]大城立裕 ▽記者のお薦め (4)月山・鳥海山 [著]森敦 1935年から今年の上半期までに146回を数える芥川賞。鎌田さんが最初に選んだのは、第74回の受賞作(1)『岬』だ。著者の故郷・紀州を舞台に、複雑な血のしがらみの中で生きる人々が描かれる。 「あらがえない血のつながりの苦悩と葛藤を描いた小説で、同じテーマで書かれた最新受賞作『共喰(ぐ)い』と読み比べて欲しい」と鎌田さん。 『岬』はやがて『枯木(かれき)灘』や『地の果て 至上の時』という続編を
ダメをみがく―“女子”の呪いを解く方法 [著]津村記久子・深澤真紀 「降りる」は生きやすさへの鍵 女性の人生が持つ自然な多様さ。それは経済一点突破主義が折れかけの男性的生き方に対して、本来は、風穴となるべきだった。が、「女子」をめぐるメディアや国策が相互にエスカレートした結果「すべてをできる女性がいちばんえらい!」(今、すべての女性誌はそんなでかなり病んでる)となり、他人の期待に敏感な女性は、それに応えようとして折れている。 妊娠出産に最も適した時期に求人などすべてを集中させ、そうでなければ市場から閉め出すことを続けながら、少子化が問題であると言うのは、本当は社会がおかしい。 この本は、現代日本社会の諸問題が、女性の中に端的に出ていることを扱っている。社会の問題は、構造の弱い部分に必然的に出る。だから「女性」なのであり、女性が女性に向けた「女子本」ではない。〈草食男子〉の名付け親・深澤真紀
MAKINO [編]高知新聞社 牧野富太郎は、生涯で40万点の植物標本を収集し、1500種類の植物を命名した、偉大な植物学者だ。彼が監修した植物図鑑は、細密でうつくしいカラー図版が魅力で、いまも愛用されている。「うちにもその図鑑ある!」というかたも多いだろう。 本書は、牧野氏の業績と足跡のみならず、人柄を知ることもできる、「牧野愛」にあふれた好著だ。植物への愛と情熱が強すぎる牧野氏なので、「植物採集に出かけた利尻山であわや遭難」「死後、新聞紙に挟まれた膨大な植物標本をまえに、みんな途方に暮れる」など、周囲の人々を困惑させたエピソードにも事欠かない。植物に魅入られた牧野氏の、破天荒で嫌味(いやみ)のない、愛すべきキャラクターが非常によく伝わってくる。 著者は、牧野氏の周辺人物にも丹念に取材し、牧野氏が行った土地にも足を運んでいる。その結果、本書は、「一人の天才をめぐる群像劇」かつ「旅行記」の
白洲正子 ひたすら確かなものが見たい [著]挾本佳代 これは白洲正子「論」なのだろうか? 読みながら、白洲正子が触れた日本文化の肌触りを、感じるようになってくる。そのまなざしがとらえたものを、共に見たような気がしてくる。論じているというより、白洲正子の内面に導いていくような本なのだ。「確かなものが見たい」という熱望が、読む者の熱望になる。 重要なのは「型」であった。著者は白洲が「確かなもの」を見極めようとしたその根幹に「型」の習得があったことに注目する。白洲は能や香道の型を体得することで、そこにのみ個性が現れることを知る。徹底的に型を身体に刻み込み、型が重なって舞となり、舞が重なって能となることを悟る。能では人間が自然の象徴として現れたり、過去を生きた亡霊として現れたりするが、型を通してこそ、そこに個性が出現するとともに、自然と人間の関係にかかわる普遍的なかたちもまた、顕(あらわ)れるのだ
■天野祐吉(著書はこちらから) 「広告批評」誌で同僚の島森路子がインタビューした相手は、優に200人を超えている。その対象は、鶴見俊輔さんや吉田秀和さんから爆笑問題やラーメンズまで、相手かまわずのように見えるが、選択の基準がなかったわけではない。 それはただ一つ「自分が面白い」と思える人であることだ。急いでつけ加えておくとこの場合の「面白い人」とは「“いま”を正しく語れる人、あるいは“いま”をいきいきと体現している人」のことである。たんに「話題の人」というだけでは彼女は関心を示さない。そんなとき「だって、あの人つまんないもん」と彼女は言ったし、橋本治さんもそのせりふを何度か聞いたと書いている。 その点で、橋本さんは彼女をインタビュアーである前にすぐれた編集者であると言う。そして彼女のインタビュアーとしてのすごさは、ときに自分を消して相手の一人語りのようにしてしまうところだと言っている。自分
ミシェル・フーコー講義集成 13 真理の勇気 著者:ミシェル・フーコー 出版社:筑摩書房 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理 ミシェル・フーコー講義集成13 真理の勇気 自己と他者の統治2 [著]ミシェル・フーコー 本書はフーコー最晩年(1984年)の講義録であり、その主題は「パレーシア」である。それはギリシャ語で「真理を語る」という意味だ。真理を語るといっても、いろんなケースがある。真理を語ることによって、相手との関係が損なわれたり、自分の身が危うくなる場合がある。パレーシアとはそのような場において真理を語ることである。だから、パレーシアには「勇気」がいる。 なぜフーコーはこのことを考えるようになったのか。それは哲学の意味を問い直すためである。今日、哲学は知識を厳密に基礎づける仕事として存在している。それはプラトン以来の哲学がたどった道である。フーコーはそれに異議を唱える。哲学は「真の生」
ニュースの本棚 毎週日曜日の読書面に連載中。「原発事故」「地方自治」「ねじれ国会」など、時事的なテーマを理解するためのオススメ本3冊を、各分野の専門家がご紹介しています。 吉田秀和の遺産 片山杜秀さんが選ぶ本 ■音楽は自立した精神の支え 昭和初期の日比谷公会堂。吉田秀和は「さる外国のピアニスト」のリサイタルでバッハとシューマンを並べて聴く。初の評論集『主題と変奏』の巻頭に置かれた「ロベルト・シューマン………[もっと読む] [文]片山杜秀(慶応大学准教授・評論家) [掲載]2012年06月03日 ベーシックインカム 山森亮さんが選ぶ本 ■全ての人に無条件で所得を ベーシックインカム(以下BI)とは、全ての人は生活に足る所得への権利を無条件で持つ、という考え方である。生存権の純粋な形での表現といっても良い。18世紀末に出現した(………[もっと読む] [文]山森亮(同志社大学教授・社会政策) [
写真の読み方―初期から現代までの世界の大写真家67人 [著]イアン・ジェフリー 著者は、これまで写真史、美術批評の分野で卓越した知見を示してきた。本書では、写真の黎明(れいめい)期から現代までの写真家67人と2度の大戦中に撮影された写真を取り上げ、写真に包含される様々な意味を読み解いている。 タイトルこそ素っ気ないが、中身は写真家の概説に留(とど)まるものではなく、ましてや指南書の類でもない。本書はそれぞれの写真家同士の関係を含め、章と章が重奏的に響き合い、強いて言うならば“写真史に関する挑発的な資料”といった側面を持っている。写真家の名によって章立てされているが、その中に「第一次大戦」「再殖民局 農業安定局」「第二次大戦」という項があえて設けられていること、また写真家によって割かれるページ数が異なっていること、さらに取り上げられている図版が誰もが見知っている代表作ばかりでないことなどがそ
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く