われわれは望む、望まぬに係わらず、日本という国に生まれ、日本語という言語を母語とし、日本国民として生きていくことを担った存在者である。この当然の事柄は、必然的に日本という国の根底に位置するある一つのレジームと、肯定するにしろ否定するにしろ、あるいは、賞賛するにしろ嫌悪するにしろ、向き合わざるを得ない状況の中にいることを示している。そのレジームとは天皇制である。天皇制は一般的には確固として不変的なレジームであると思われているが、実際には幾重にもベールに包まれ、その実態を覆い隠そうという何らかの意志を持っているようにさえ感じられる捉えどころのない不可思議なレジームである。 子安宣邦氏は、最新書『天皇論 「象徴」と絶対的保守主義』(以後、サブタイトルは省略する) の中で、この謎に満ちたレジームと論争的に (polémique) 対峙している。論争的であるのは、象徴という覆いによって隠された不鮮明