雨時は、しかたなく本の整理をする日が多くなった。むろん、進んでするわけではない。 「風呂屋の大桶」こと、猫も含めて衆目の一致する妻の業務命令だから、拒否できない。風呂屋の大桶とは、「湯(言う)ばかり」が落ちだ。 文庫本の中に清張シリーズがどっさりあり、拾い読みしているうち、気付くのは書き出しの巧みさである。それも初期の頃の作品に力がこもっている。森鴎外に傾倒した作者であるから、実にシンプルで飾りがない。その書き出しに惹かれて、『点と線』、『ゼロの焦点』、『砂の器』と、短編の『啾啾吟』『或る「小倉日記」伝』を並べ、読みだした。九州ゆかりの清張だけに九州を舞台にした作品は多い。清張は経歴よれば、小倉生まれになっているが、清張が新聞社のインタビューで「届けは小倉でも、生まれたのは広島の旅先」と、明かしている。妻は佐賀の人だ。『啾啾吟』は幕末の鍋島藩が舞台である。 芥川賞受賞の「或る小倉日記伝」で
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