七月、織田信長は、武田信玄の西上に喜んで挙兵した将軍・足利義昭を山城槙島城(まきしま。京都府宇治市)に攻め、追放しました。ここに室町幕府は滅亡したのです。 「次は浅井だ。今度こそとどめを刺してやる」 信長は休むまもなく近江に矛先を転じました。 「浅井朝倉を倒せば、天下はようやく我が手中に収まる」 「長政を助けに行かなければ」 出陣しようとした私に、朝倉景鏡、魚住景固らが反対します。 「殿、無謀ですぞ。今の信長には勝てませぬっ」 「信玄も将軍も延暦寺もなくなった今、浅井を助けに行くのは死にに行くようなものですっ」 私は言いました。 「それでも私は、長政を助けに行かなければならないのじゃ」 「なぜですか!」 「長政は以前、朝倉の窮地を救ってくれた。――だから助けるのじゃ」 「そこが殿の甘いところですよ! 根本的に信長と違うところですよ! 情とか義理は忘れてください! 忘れなければ朝倉は滅びます
織田信長――。 この男を、ジイ様は非常に買っておりました。 ジイ様は死ぬときにぼやきました。 「ああ、あと十年、いや、五年生き延びて、天才信長の行く末を見届けたいものじゃ」 私は鼻で笑っていました。 当時の信長は、まだ本拠の尾張平定にもてこずっている状態でした。 私はおもしろくありませんでした。 「なんてジイ様だ。自国の私より、敵国のヤローの将来を気にするとは――。しかも、尾張の信長じゃあ? ヤツは近々上洛する今川義元によって滅ぼされる運命ではないか」 ところが、信長は今川義元を一撃のもとに倒してしまいました。そして美濃の斎藤竜興(さいとうたつおき)をぶっ飛ばし、南近江の六角義賢(ろっかくよしかた)を蹴(け)散らして、私が捨てた足利義昭と一緒に京都に上洛したのです。 「ジイ様の言うことも、まんざらではなかったな。今川を倒したのはまぐれであろうが、斎藤・六角との戦いは確実に勝ちにいっている」
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