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大久保長安は思った。 「ボクが本多の壁を破ることができなかった理由は、ゼニが少な過ぎたからだ」 そして、石見銀山を視察しながら思案した。 「いったいどうしたら少しでも多く、圧倒的に多く、天文学的な量の銀を生産することができるか?」 長安は思いつく限りの方法を試してみた。 まず、新採掘法を導入した。 それまで縦に穴を掘っていたのを、横から掘って排水を良くしたことにより、より多くの鉱石を採取できるようにしたのである。 また、新精錬法も導入した。 鉱石に水銀を流して含有金銀を抽出、後で水銀を蒸発させて取り除くという「水銀流し(アマルガム法)」を行わせ、より効率良く銀を精錬できるようにしたのである。 水銀なので有毒ガスが発生するわけだが、そんなことは現場にいない長安の知ったことではなかった。 さらに、自分山(じぶんやま。山師の私営)だった多くの鉱山を、直山(じきやま。幕府の直営)にした。 そうする
ある日、無職の藤十郎のもとに来客があった。いかつい中年男であった。 「土屋藤十郎さん。あんた、カネ持ってますね?」 「なんだよ、いきなり」 残党狩りかと勘違いした藤十郎が警戒して刀の柄に手をかけると、中年男は、 「まあまあ。拙者、徳川の家臣・大久保忠隣(おおくぼただちか)と申す者だ。実はウチの殿(徳川家康)が武田家の埋蔵金について知りたいと――」 甲斐は天正十年(1582)七月に家康の領地になっていた。 藤十郎は、すっとぼけた。 「まいぞーきん? 何それ?」 「とぼけたって分かっているんだ。あんたは武田家の金銀山の経営を取り仕切っていたそうじゃないか。莫大な埋蔵金を隠したのは、あんただ」 「……」 「まあいい。言いたくなければ無理強いはしない。ただ、いくらカネを持っていても、職がなければ減る一方。――どうだ? 徳川で働く気はないか? ウチの殿はあんたの山師としての才能を買っておられる。実の
家はビンボーであった。日々の食べ物にも困っていた。 「ご飯まだ?」 「今日はないよ」 「明日は何?」 「明日もないよ」 「こんな生活、いやだっ!」 キレたのは、兄の信之丞。 「オレはサムライになるんだっ! サムライになって、大金持ちになって、毎日うまいメシを腹いっぱい食いまくるんだ!」 信之丞は家を飛び出した。 藤十郎も兄についていった。 「ボクも大金持ちになるんだっ」 当時、甲斐には有名な戦国大名がいた。 御存知、武田信玄である。 信之丞は言った。 「オレは腕っ節の強いところを見せ付けて、武田のお館サマに取り立ててもらうんだ」 藤十郎も言った。 「じゃあ、ボクも」 信之丞は笑った。 「おまえはダメだ」 「なんで?」 「弱いから。力がないから、不採用だ」 「そんなことないよ」 「まあいい。オレが採用されれば、お前だっていい暮らしができるさ。何しろオレは大金持ちになるんだからなっ」 信玄は、
始まりは一通の手紙であった。 織田信長からの返信が、武田信玄のもとに届いたのである。 これ以前、信玄は信長の延暦寺の焼打を非難する手紙を送信していた。 「お館。信長からの書状が届きました」 返信を差し出したのは、武田信実(のぶざね。信濃河窪城主)。信玄の弟である(「武田氏略系図」参照)。 「うむ」 信玄はバーッと書状を広げた。 文面はともかく、その最後尾を目にしたとき、信玄の分厚いひげが震え始めた。 「お館。どうなされた?」 信玄はうめくように言った。 「フフフ……。すごいヤツから書状が来たものだ」 「すごいヤツ? あれ? 信長からの書状でしたよね?」 信玄は手紙を見せた。 信実に差出人のところを指して見せた。 信実は驚いた。 「だ、だ、だだ、だだだっ、だっだっだっ第六天魔王・信長っっっ!!!」 信玄は歯ぎしりした。手紙をたたきつけて激怒した。 「そうだ。ヤツは悪魔に魂を売ったのだ! これ
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