ある日、無職の藤十郎のもとに来客があった。いかつい中年男であった。 「土屋藤十郎さん。あんた、カネ持ってますね?」 「なんだよ、いきなり」 残党狩りかと勘違いした藤十郎が警戒して刀の柄に手をかけると、中年男は、 「まあまあ。拙者、徳川の家臣・大久保忠隣(おおくぼただちか)と申す者だ。実はウチの殿(徳川家康)が武田家の埋蔵金について知りたいと――」 甲斐は天正十年(1582)七月に家康の領地になっていた。 藤十郎は、すっとぼけた。 「まいぞーきん? 何それ?」 「とぼけたって分かっているんだ。あんたは武田家の金銀山の経営を取り仕切っていたそうじゃないか。莫大な埋蔵金を隠したのは、あんただ」 「……」 「まあいい。言いたくなければ無理強いはしない。ただ、いくらカネを持っていても、職がなければ減る一方。――どうだ? 徳川で働く気はないか? ウチの殿はあんたの山師としての才能を買っておられる。実の
家はビンボーであった。日々の食べ物にも困っていた。 「ご飯まだ?」 「今日はないよ」 「明日は何?」 「明日もないよ」 「こんな生活、いやだっ!」 キレたのは、兄の信之丞。 「オレはサムライになるんだっ! サムライになって、大金持ちになって、毎日うまいメシを腹いっぱい食いまくるんだ!」 信之丞は家を飛び出した。 藤十郎も兄についていった。 「ボクも大金持ちになるんだっ」 当時、甲斐には有名な戦国大名がいた。 御存知、武田信玄である。 信之丞は言った。 「オレは腕っ節の強いところを見せ付けて、武田のお館サマに取り立ててもらうんだ」 藤十郎も言った。 「じゃあ、ボクも」 信之丞は笑った。 「おまえはダメだ」 「なんで?」 「弱いから。力がないから、不採用だ」 「そんなことないよ」 「まあいい。オレが採用されれば、お前だっていい暮らしができるさ。何しろオレは大金持ちになるんだからなっ」 信玄は、
こうして光仁天皇は即位したが、すぐに皇后は定められなかった。 その訳は、藤原良継(よしつぐ)・百川(ももかわ)ら式家と、藤原永手(ながて)ら北家の思惑が異なっていたからにほかならない。 良継・百川ら式家が光仁天皇を推したのには、理由があった。 実は百川は、光仁天皇の次男・山部親王と仲が良かったのである。 百川は確信していた。 「山部親王こそ、天皇にふさわしい器だ」 それにはまず、その父・光仁天皇を天皇にしておく必要があった。 そしてもう一つ、その生母・和新笠(やまとのにいかさ)を皇后にしておく必要もあった。 一方、永手ら北家が光仁天皇擁立に賛成したのにも理由があった。 実は最近、永手は娘・曹司(そうし)を光仁天皇に嫁がせていたのである。 つまり、曹司に子が生まれれば、自分は天皇の外戚(がいせき)として実権を握ることができる。 それにはまず、その夫・光仁天皇を天皇にしておく必要があった。 そ
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