紀益女は率川社(いさがわのやしろ。率川神社。奈良市)に勤めていたとみられる。 藤原雄田麻呂は、益女に会うためにそこを訪れた。 「依頼に参りました」 「何の?」 「益女さんのウラ稼業(かぎょう)の」 「はあ?」 応対した神官は知らなかったので首を傾げたが、益女は呼んできてくれた。 益女が影のある笑みで聞いた。 「あたいのウラ稼業のこと、どこで聞きました?」 「うわさでです。その筋の達人だそうですね。――で、これを持ってまいりました」 雄田麻呂は、持参した袋の中を見せた。 中にはドクロと髪の束があった。河原で拾ってきた誰のものとも分からないものである。 益女がうれしそうに言った。 「十分ですね。ここではなんですから、裏でシカにエサでもあげながら、まったりと話しましょう」 「望むところです。話の内容は全然まったりしていませんが」 「うふふ」 益女と雄田麻呂は人気のないシカ気のある社の裏に回った。
その頃、女帝・称徳天皇は頭を押さえていた。 「うう……」 側近女官の吉備由利(きびのゆり)が尋ねた。 「どうしました?」 「頭痛が~。それも、何か後頭部を鈍器で一発なぐられたような感じ~」 「そんなはずは……。あんた、鈍器でなぐった?」 「いえいえいえっ!」 聞かれたもう一人の側近女官・法均尼(ほうきんに。和気広虫)は激しく否定した。 由利が鏡を出して称徳天皇に後頭部を見せてあげた。 「おかしいな~。なんともなってないわよね~」 「お疲れなのですよ」 「そーですよ。道鏡さまに診ていただいては?」 「うん。彼が来れば、朕(ちん)はすぐに元気になるわ」 大臣禅師・道鏡はすぐに参内した。 「お呼びでございますか?」 この後、彼は太政大臣禅師、次いで法王と前代未聞の昇進を遂げることになる(「女帝味」参照)。 「女帝が頭痛を治して欲しいそうです」 「ほう。どの部分がどのように痛むのですか?」 道鏡が
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