■思い出す本・忘れない本、大森望・日下三蔵編『拡張幻想』 《振付師・ラッキィ池田さん》 永六輔さんのラジオ番組で街ネタを取材するコーナーを担当して、20年以上。東日本大震災翌日の放送のときは、何を取材したらいいかすごく悩みました。すべてのクリエーターがそうだったと思いますが、新しいものを作ることに大きな困難があった。読書も変わりました。丸一年ほど物語に触れる気分になれなかったんです。 『拡張幻想』に出会ったのはそんな頃。大阪は淀屋橋駅の本屋さんでふと手に取りました。2011年の優れたSFを集めた短編集で、収録18作にはその年を象徴するできごとが色濃く反映されています。作家たちが敏感に反応しているんですね。どの短編からも震災や原発事故への思いや「物語の力をなめてもらっては困る!」という精神が感じられました。 庄司卓さんの「5400万キロメートル彼方(かなた)のツグミ」は、小惑星探査機に搭載の