一般の読者にも理解出来るような平易な心理学・精神分析に関する書物――概ねそれらは、このレヴューで取り上げる「狂い」についても多くの頁を割いている――を多々発表してきた精神科医の春日武彦と、『異常快楽殺人』や『東京伝説』シリーズで精神異常者の犯行を具にレポートしたり小説という媒体で更なる人間の中の狂気を追求し続けてきた平山夢明。本書はそうした「狂い」について信頼し得るエキスパートである二人が現在蔓延する「狂い」について縦横無尽に、実に自由気ままに語り合った対談を収めた書物である。 自由気ままに、である。本書を読んでいても別段小難しい心理学用語が登場するわけでもなければ、緻密なデータに基づく何かが検証されるというわけではない。彼らが頼るのはそうした具体的な資料ではなく彼ら自身が見聞きしあるいは体験した様々な出来事に基づく経験則だ。それを「ペットボトル片手に好き放題に語り合った」(春日氏が記