1 夜の街に降るはずだった雨は、この寒さで雪になってしまったようだった。 人材エージェント会社の営業を待っていた関口は、折りたたみ傘をさしていたが、風に巻き上げられた粉雪のいくつかは、彼の野暮ったいコートに吹き込んでしまう。 地下鉄の入り口から息せき切って営業の男がやってきた。時間ギリギリだ。 「急ぎましょう」 遅くなったのは自分のせいなのだが、彼は高そうな時計を一瞥すると早足に歩きだした。 「お電話でも言いましたが、どうも、難しいお客さんのようですから。関口さんも気をつけてください」 クライアントのオフィスに向かう道すがら、息を弾ませながら営業は言った。 どう気をつけろと言うんだ。関口は心の中で溜息をついた。 年度末の繁忙期に入ろうとしている中、大抵のエンジニアはすでに現場にアサインされていて、あぶれているのは自分のような40代以上のエンジニアなどの「訳あり」物件だけだ。 関口としては、