芋洗い、栗ごはん、よせがき、ダイゲンキデスといったタイトルが示すとおり、後藤靖香が描くのは戦時中の出来事、しかも、戦争で餓死した大伯父をヒーロー化し、その物語を綴ったマンガ風の巨大な墨絵(300cmX500cmのink on canvas)です。 「オジさんは私が作ったヒーローで、生きることを教えてくれた。生まれた時代、環境、戦争。それは、私たちとは違うようで似ている。不利でも、どうしようもなくても、そこで生きていかなければならない。」そう語る後藤の作品は、あの悲惨な戦争と忌まわしいナショナリズムを、不連続性こそが日本近代美術の特異点とみなし、忘却の彼方へと押し込めていた我々の眼を釘づけにしてしまう、ただならぬ気配を放っています。 社会学者大澤真幸は、国民国家が、近代という時制の中で普遍性と特殊性が交錯したところから立ち上がってきたものだと分析したうえで、それらを邁進させる資本主義の本質に