はじめに アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの『<帝国>』【注1】は,2000年の発売以来世界的に注目を集めつづけ,大学出版としては異例のセールスを記録しながら,アカデミーの垣根を越えて――とりわけインターネット上を重要な議論の空間としながら――さまざまな評価を呼んできている.それらの評価の中には,「<帝国>という分析枠組みが,ポストコロニアリズムにとって代わる新しい枠組みとなりつつある」といった内容のレヴューや書き込みも散見された. この小文は,今となってはどこでどの程度語られていたのかも確かめようのない,こうした評言を読んだときに私が感じていた違和感をめぐって書き起こされている.というのも,私のそのような違和感は,日本の大学や出版ジャーナリズムをとりまいてやはり同じように散見される,一種の「ポスコロ嫌い」の風潮への危機感と重なっており,そうした風潮がネグリ=ハートの『<帝国>』の読