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ブックマーク / lleedd.com (52)

  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » いらっしゃいませ、「はんぱ屋」です。

    鉄砲伝来と宇宙基地で知られる種子島には、千年の伝統を誇る「種子鋏」を打つ鍛冶職人たちがいます。数年前にその作業場を見学させてもらったときのこと、私は、ふとある物体の美しさに目を奪われて、作業中の親方に声をかけました。 「あの・・・その足もとに置かれたものを譲ってくれませんか。」 初老の親方の足下には、柔らかい鉄(柄や背の部分)と固い鋼(刃の部分)を叩き合わせたばかりの鋏の原型が並べられていました。それは長い棒のついたナイフのような物体で、この後に長い柄をくるりと丸めて二つ合わせるとあの鋏の形になります。 変なことを言い出す人がいるもんだと苦笑いしながら、親方はそれを手渡してくれました。まだ暖かいその物体には、仕上げられた繊細な種子鋏にはない、親方の息づかいがありました。荒々しい質感と素朴で実直な形には、これから鋏になるという意思が込められているようにも見えました。 ものづくりの現場が大好き

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    s1090018 2010/09/08
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » 風のとおり道

    ダイソンの羽根のない扇風機は、ちょっと目には魔法のように見えます。リングの内面の細い隙間から、高速の空気を吐き出し、それが後方や周囲の空気を引きずって大きな風になって前に流れて行く。ばらしてみると高速空気の元となる小さなファンが根元にあって、上のリングに空気を送り込んでいます。 ある雑誌社の方が、リングが空洞なのを知って、何かちょっとがっかりとおっしゃっていました。しかし、むしろ何も入っていないというシンプルさにこの原理の素晴らしさがあります。原理的にはこのリングは円である必要はありません。角の丸い四角でもひょうたん型でも、あるいは花の形でも機能するでしょう。また、リングがとても軽く、安全であることも合わせると、レイアウトと形に大きな自由度を持つ送風原理だと言えるでしょう。 ダイソンさんとは以前からご縁があって、ダイソンのデザイン理念を伝える展覧会の私がディレクターとなりました。会期中に予

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    s1090018 2010/07/30
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » 奇人天才シリーズその5.5:檜垣万里子さん

    分解大好き万里子さんは慶應義塾大学脇田研究室の出身で、学生のときに Ephyra 製作チームのリーダーでした。その頃からすっかりメカの好きな学生になり、人数の少ない9月卒ながらSFCを首席で卒業して、私の元に来てもう三年になります。 「骨」展ではアシスタントディレクターを務め、私と一緒に洗濯機の骨を探して工場を隅々まで歩きましたし、椅子も携帯電話もPCMレコーダーも分解しました。クロノグラフの百以上ある微小部品をひとつ一つアクリルの板の上に並べたのも彼女でした。 MacBook Airの分解でも、彼女に指揮を取ってもらいました。元に戻すことができたら万里子さんのものにしても良いという約束で始めて、元に戻したときには4時間が経っていましたが、今でも元気に動いているようです。 先日、iPhone 4の実物を初めて見たときの第一声は、「このネジに合う工具はなかなか手に入らないんですよ」。もう十分

  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » よく知っている物ほど難しい ~ 絵についてのつぶやきまとめ

    絵についての私のつぶやきを少しまとめておきます。発端は5月17日の暦さんのつぶやきに対する答えでした。長文の連作つぶやきとなり、多くの方にRetweetいただきました。 — 絵を描くというのは、見る技術です。東大工学部でスケッチを教えるようになってもう20年近くになりますが、最初に教える事は目の前に見えている物の空間構造を捉え直すことから始めます。 Rt @rkmt 絵がうまい人は同じものを見ていてもちがうものが見えているような気がする。12:19 AM May 17th webから 面白い事に、言語論理的思考の優秀な人間ほどしばしば、「かたち」を見ていない事に気がつきました。「なるほど、わかった」と判断したとたんに、そのものを見なくなるのです。これは人の認知の構造と関わると思われます。12:22 AM May 17th webから 絵を描く訓練は、わかっている物をあえて捉え直す作業です

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    s1090018 2010/05/26
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » ステレオ映像と3D体験のちがい

    流行の3D映画を見て、小学生の頃にステレオ画像にはまったのを思い出しました。とりあえず1枚作ってみましたので裸眼立体視(平行法)のできる人は試してみて下さい。 ひとつの立体を両目で見たとき、左右の眼の位置が違う分、少しだけアングルの違いが生じます。私たちの脳はこれを照合して立体や空間の奥行きを感じています。これを利用したステレオ写真は、写真が生まれて20年ほどしか経っていない1840年代にはすでに盛んに撮られていたようです。方法は簡単で、左右に並べたカメラで同時に撮る、それだけです。 最近3D映画や3Dテレビも、原理は同じで、特殊な眼鏡をかけることによって、アングルのずれた画像が左右それぞれの眼だけに見えるように工夫されています。 これについて田川欣哉君が、twitterの中で「映像面に対して人が右に左に歩き回っても,奥行きの軸が視点に対して変わるわけではない」ことを上げ、そのことが目や脳

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    s1090018 2010/05/23
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » ミニカーは実車の縮小ではない

    乗用車のミニカーは、実物の単なる縮尺ではないのをご存知でしょうか。クルマの設計製造に使われるボディの三次元データを使って、例えば1/43とかに縮小して精密加工でモデルを作れば、完全なミニカーができるはずです。ところがそのようにして作られたモデルを実際に見てみると、ちっともらしく見えないのです。 実際にカーデザインの現場で、正確なスケールモデルを何度か見たことがありますが、その印象は一言で言うと、ぺらぺら。実物を見ると抑揚の強いスポーツカーのボディも、縮小するにつれて、フラットな四角いクルマに見えてきます。 この「スケールによる曲面感度の差」について、ちゃんと調べた文献に出会ったことはないのですが、デザインの現場ではポピュラーな知識です。駆け出しのカーデザイナーだった頃に、スケールモデルと実物の違いについては十分気をつけるよう注意されました。乗用車をデザインする時は、最初はスケールモデルを作

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    s1090018 2010/05/14
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » まだら模様の数学原理

    チューリング・パターンという生物の体の模様の古典的な数学シミュレーションがあります。 まあ素人なりの理解で乱暴に説明すると、お互いに反応をおさえたり強くしたりする影響力を持つ二つの化学反応が同時に広がって行くときに、その広がりに周期的なムラができるというものです。波紋の重ね合わせやモアレにちょっと似た現象ですが、「お互いに影響し合う」ってところがみそで、その影響の度合いをうまく調整すると、ヒョウ柄やシマウマ柄、熱帯魚の模様などの様々なパターンが現れます。 「反応拡散波」っていうSFっぽい名前がついているこの現象についての理論はコンピュータサイエンスの父と呼ばれる英国の数学者、アラン・チューリングが1952年に発表しました。この人は20代の頃、まだコンピュータが存在しない1930年代に、何でも計算できる万能装置が存在しうる事を数学的に証明して、コンピュータの理論的基礎を築いた人です。戦時中、

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    s1090018 2010/04/02
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » 深澤さんの台形

    “スティーブ・ジョブスの台形嫌い“については、たくさんの反響をいただきました。製造コストのために、垂直に作りたくても少しだけ台形にせざるを得ない状況は、多くのメーカーの技術者やデザイナーが日頃経験している事だと思います。 深澤直人さんが2006年にneonを発表したときに「垂直に立てて置くことができる」ことや「積み木のように複数個を自由に積み重ねることもできる」ことがさまざまなメディアを通じて強調されていました。 もうおわかりと思いますが、これも完璧なゼロドラフト(抜き勾配なし)を象徴したエピソードです。当時、「携帯電話を積み上げられることに何の意味があるの?。neonを複数持つ人なんていないし」と首を傾げる友人に、これは実用性を訴えているのではなく、スタイルへのこだわりを伝えているんだと思うよと説明した覚えがあります。一見ただの直方体に見える携帯電話の多くは、実際にやってみるとちゃんとは

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    s1090018 2010/03/30
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » ビヨン&しっとり

    Daily Scienceというカテゴリーを設置しました。日のお題は、手応えの成分。 道具の動きや手応えなどを表すのに私たちは様々な言葉を使います。びゅん、するする、ぎゅっ、ぐにゃり…。こうした動的な感触を表す表現は繊細で多様ですが、これを計画的にデザインするためには、もう少し整理してこれを理解する必要があります。そのためには工学的な機械力学の手法がとても参考になります。 技術者は機械にある力が加わったときの手応え(応答特性)や振動を、主にふたつの成分の組み合わせで解析します。それは、バネ成分とダンパー成分。 バネ成分はなんとなくイメージしやすいでしょう。日常的な表現を使えば、「ビヨン」とした手応え。私たちの身の回りにある固体は多かれ少なかれバネの性質を持っています。金属もプラスチックも木も紙も、力を加えるとその力に応じてたわみ、はなすと元に戻ります。各部品のバネ成分が合わさって、機械は

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    s1090018 2010/03/24
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » 薄く作ると重くなる

    坂井直樹さんとの対談のために、XD展を訪れた漫画家のしりあがり寿さんは、パナソニックのレッツノートを抱えていました。「やっぱり軽いので」だそうです。そのボディの深い凹凸を眺めながら、以前にこんな発言をしたのを思い出しました。 ノートパソコンは、薄く作ると重くなる。 薄くフラットであることは、実は剛性の点では不利です。簡単に言うと曲がりやすくなります。パソコンには繊細な部品がたくさん入っていて、大きな変形は致命傷になりかねないので、アップルは、MacBookのためにアルミの塊からボディを削りだして非常に剛性の高いボディを作りました。薄くても簡単には曲がらない魅力的なボディを実現したのですが、結果的に少々重くなってしまっているのは事実です。 その点、レッツノートは薄さと画面の広さをかなぐり捨てて、軽さ、丈夫さに徹しています。まず、小さめのディスプレイを使い、部品を厚めにレイアウトして、全体をご

  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » デザイナーよ、そんなに急いでどこへ行く

    デザイナーの道具のカタログを見ると、「素早く確認」とか「時間の節約」という言葉がよく使われています。いわゆるアーティストが使う画材との、一番の違いはそこかもしれません。 例えば、プロダクトデザイナーのスケッチに多用されるマーカーですが、これも準備のいらない乾きが速い画材として開発されました。最初に普及したデザイナー用マーカーのブランドが、スピードとドライをおやじギャグ的に合わせた「Speedry」ですから。今では高校生も使うようになったコピックも、トナーを溶かさないのでコピーした線画の上に塗れて、スケッチが量産できる事が売りだった頃の名称が生き残っています。 モデル材料も同じです。モデルを作るときのデザイナーの仕事は彫刻家に似ていますが、デザイナーは決して大理石を使ったりしません。発泡スチロールや粘土などの造形が簡単な素材を多用します。スチレンボード、バルサ、ケミカルウッド、いずれも加工し

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    s1090018 2010/03/11
  • 山中俊治の「デザインの骨格」 » スティーブ・ジョブスの台形嫌い

    手もとにあるプラスチックの製品を見て下さい。真四角な箱だと思っていたものが、よく見るとほんの少しだけ台形になっていませんか。二つの箱を合わせて作られた製品の、真ん中のつながりをよく見ると、わずかに「くの字」に膨らんでいませんか。まっすぐな円筒だと思っていたプラスチックのキャップ、よく見ると少し、口の側が大きくなっていませんか。 プラスチックの製品は、熱く溶けたプラスチックを型に流し込んで、冷えて固まったところで取り出して作ります。そのために多くの場合、どちらかの方向に向かって台形に広がっています。まっすぐなものは型から抜けないからです。型抜きポンで作る板チョコが必ず台形になっているのと同じです。真四角の高級生チョコは違いますよ。ひとつ一つ切って作りますから。 appleの創始者スティーブ・ジョブスはこの台形が許せませんでした。Mac II以前のMacはみんなちゃんと直方体になっています。プ

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    s1090018 2010/03/03