■エニグマ暗号機 第一次世界大戦が終わり、ヨーロッパが一息ついた頃、ポーランドはまだ暗号解読に精を出していた。ポーランドは、東西をロシアとドイツにはさまれ、地政学的には最悪の位置にある。そして、第一次世界大戦でそれを身をもって体験した。ドイツとロシアに同時に攻め込まれたのである。 ポーランドは、事が起こる前に、必ずサイン(兆候)があると考え、情報収集に余念がなかった。もちろん、重要な情報はすべて暗号化されている。1926年のある日、ポーランド暗号解読班は、突如、解読できない暗号に遭遇した。ドイツのエニグマ暗号である。 エニグマ(enigma)はドイツ語で「謎」を意味するが、その名に恥じない難攻不落の暗号だった。ただし、方式はオーソドックスな「文字の置き換え」。平文の文字を「変換ルール」に従って、置き換えるのである。当然、変換のルールが鍵となる。平文を秘密の鍵で暗号文に変換すれば、同じ鍵をも