まつい・ひろみ 東京大学大学院総合文化研究科准教授。博士(美術史)。専攻は、フランスを中心とする近現代美術。著書に『キュビスム芸術史:20世紀西洋美術と新しい<現実>』(名古屋大学出版会、2019年)、翻訳にデイヴィッド・コッティントン『現代アート入門』(名古屋大学出版会、2020年)など。 あらま、顔がヴァイオリンに…… この春ヴェルサイユ宮殿で、19世紀に活躍したフランス人画家オラース・ヴェルネの展覧会が開催されていた。ヴェルネは、オリエンタリズムや歴史画を手がけたアカデミズムの画家として語られることの多い画家だ。しかしこの展覧会は、意外にもロマン主義と古典主義をつなぐような革新的潜在性を秘めた画家であったことを示す点で、実に発見の多い企画だった。なかでも興味深かったのが、最後の部屋にひっそりと展示されていた風刺的自画像(図1)である。ここでヴェルネは、60歳を迎えた自己の頭部を、ヴ