日本人は、ひたすら坂を上ることばかり考えてきた。だが実は、坂道は上りよりも下りのほうがきつい。足をすべらせて転げ落ちないために、どう心構えをすべきか。「そろそろと」がキーワードだ。平田オリザ氏と内田樹氏が語り合う。 若者は絶望している 内田樹 平田さんの新刊『下り坂をそろそろと下る』は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』の書き出しを模した「まことに小さな国が、衰退期をむかえようとしている」の一文から始まります。原文は「衰退期」ではなく「開化期」ですが、これを読んで背筋が寒くなりました。 平田オリザ なるべく多くの人に話題にしてもらいたくて、有名な司馬さんの文章を引用したんです。 内田 「警世の書」は巷にあふれていますが、これほど穏やかな文体のものは読んだことがありません。だからこそ怖い。平田さんの静かな口調からは逆に、「もう崖っぷちまで来ている」という危機感が伝わってきます。 平田 多かれ少なかれ