『グーテンベルクからグーグルへ』訳者による特別寄稿 明星 聖子(埼玉大学教養学部准教授) これは悲しい予言の書です。これからの文学研究は、デジタルの「本」に基づかざるをえない。著者シリングスバーグは明らかにそう語っています。 いや、そんなことはありえない。仮想空間に浮かぶ幻影を相手にして、研究などできるはずがない。大半の方は、おそらくとっさにそう反論したくなることでしょう。 でも、本当にそう言い切れるのでしょうか。例えば、目の前のディスプレイに、ある作家の小説の草稿画像が表示されているとします。同時に、机の上には、活字の本になったその小説の一頁が開かれている。では、研究者が研究のために活用するのは、いったいどちらでしょう。 「オリジナルにあたれ」という言葉を、研究の場でよく耳にします。しかし、このオリジナルとは何でしょうか。例えば、いまの場合、よりオリジナルに近いのはどちらでしょう。編集者
グーテンベルクからグーグルへ―文学テキストのデジタル化と編集文献学 [著]ピーター・シリングスバーグ[掲載]2009年10月11日[評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)■電子本の登場が人文学を変える 500年前にグーテンベルクの活版印刷が世に出て、本の世界は劇的に変わった。それまでの手書きの写本は、多量の部数を発行できる印刷本に取って代わられた。それと同じくらいの巨大な変化が今起きつつある。 新しい書物の形態を「電子本」と呼ぶならば、それとの比較でこれまでの本は「印刷本」と呼ばれるようになるであろう、と著者は言う。電子本の登場は、文献を扱う人文学を根底から変えつつある。 著者は近代英文学、特にビクトリア朝文学の専門家として、19世紀の小説のテキストを批判的に考証してきた。その成果を紙に印刷された本の形で出版する場合、どうしても限界が生じる。 作家の手稿や、初版・再版、ペーパー
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