アウエルバッハは、主に3つの観念にもとづいて分析を行なった。 19世紀フランスのリアリズムが、古典古代から続いてきた文芸的描写の様式水準の高低の常識から訣別した。 16-17世紀において、ロマン主義者とリアリストを隔てる壁が築かれた。この壁は、古典古代文芸の厳格な模倣を目指す人々によって築かれた。 古典古代末期や中世のキリスト教的な作品の現実感は、近代のリアリズムとは全く異質である。これを比喩形象的と呼ぶ。 第1章 オデュッセウスの傷痕 古代の叙事詩文体として、ホメーロスの『オデュッセイア』と旧約聖書のイサクの燔祭の2つをあげて比較し、対照的な世界観を述べる。ホメーロスの文では均一な照明、自由な発言、奥行きや発展のなさ、一義性などが見られ、旧約聖書は、光と影の対照、断続性、暗示や背景などを特徴とする。また、聖書は世界の歴史を全て神に結びつける必要があったため、のちにパウロと教父たちは旧約聖