来年のトルコ大統領選を見据え、オスマン帝国の継承とイスラム的価値観の尊重を国民にアピールするエルドアン大統領 トルコ共和国100年の歴史において、オスマン帝国の評価は振り子のように揺れてきた。近年は「偉大な祖先」という肯定的評価が定着し、悪徳と退廃の象徴とされた「ハレム」(日本では「ハーレム」とも表記)も、帝国中枢を支える精巧な官僚組織だったと評価される。『ハレム――女官と宦官たちの世界』を刊行した小笠原弘幸・九州大学准教授がその背景を解説する。 オスマン帝国を否定して成立したトルコ共和国 2022年は、オスマン帝国滅亡100年に当たる。およそ600年の歴史を持ち、アジア・アフリカ・ヨーロッパの三大陸に広がる領土を有したオスマン帝国は、イスラム世界の歴史上もっとも重要な国家のひとつである。ゆえに、帝国の主要な後継国家であるトルコ共和国の人々は、この帝国を自分たちの偉大な祖先として誇りに思っ