近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載はこうした状況を打破するために始められる、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。 辻政信は戦前の日本の軍人の中でも最も著名な人物の一人である。また最も謎の多い人物でもある。陸軍士官学校事件、ノモンハン事件、日米開戦、マレー半島作戦、ポートモレスビー攻略作戦、ガダルカナル島作戦、「潜行三千里」、選挙戦の圧勝と国会議員活動、ラオスでの失踪、など話題には事欠かない。その辻についての最新の評伝が本書である。 辻についての評伝としては、最も早いものとして古典と言ってもよい杉森久英の『辻政信』があり、続いて堀江芳孝『辻政信』、多々宮英太郎『参謀辻政信・伝奇』などが出てきた。最近もいくつか書かれているが、最近のものはこれまでのものをなぞったにすぎないものば