"遺伝"するRNAーー孫世代まで引き継がれた「オランダ飢餓」の記憶 遺伝子発現の制御に影響していた!? かつて遺伝学において、獲得形質は遺伝しないものと考えられていたが、いまや獲得されたエピジェネティクな情報が子孫のゲノムに伝達されることを示す実験的な証拠が、多くの生物種で得られるようになっている。少なくとも一部の形質に関していえば、そういった機能が生物に備わっていることはもはや疑う余地がない。 今回は、獲得形質の遺伝の具体例を紹介すると共に、エピジェティクな情報が子孫に伝えられることの意義について考察してみたい。 オランダ飢饉の冬 1944年6月、連合国軍のノルマンディー上陸以降、一時は欧州を席巻した枢軸国軍は徐々にその勢力範囲を失いつつあった。しかし、その年の暮れになってもオランダはまだナチスドイツの支配下にあった。オランダ国内で勢いを増したレジスタンス運動への対策として、ナチスは港の