仕事よりも遊びが大事。稼がないからって卑屈になることはない。定職があるから何だって言うの――。新型コロナウイルスに見舞われたこの時代、小説「リボンの男」(2019年)をはじめ、山崎ナオコーラさん(41)の作品を読むと解放感を味わえる。当人は経済小説と言うが、紛れもない思想小説だ。少しねじれていたり、頑固だったりするのに、最後は敵を受け入れ自分が変わることをいとわない登場人物たちの心の柔らかさもいい。 「リボンの男」は稼ぎのいい妻、幼子と暮らす主夫のつぶやきが面白い。小川に落としてしまった100円玉を子供と1時間かけて捜すが見つからず、自分は「時給マイナス100円の男なんじゃないだろうか?」とかすかに引け目を感じている。 「リボン」というのは、女性に頼る無職の男「ヒモ」の言い換えだ。主人公も「ヒモ」という言葉にあからさまに抵抗する。 働かない男というと、私の場合、10歳の頃の叔母の言葉を思い