PR誌「ちくま」2022年9月号より、山崎佳代子『そこから青い闇がささやき』について四元康祐さんのエッセイを公開いたします。戦時下の旧ユーゴスラヴィアで書かれた本書について、戦争について、山崎佳代子さんの詩について。ぜひお読みください。 2004年夏、ドイツからの一時帰国中に立ち寄った池袋の書店。1冊の本の表紙に目を奪われた。ふたりの女の、4つの切れ長の目が、1組ずつ縦に並んでこっちを見ていた。それぞれの顔を真横に寝かせ、ぴったりと重ね合わせて。上の女は頭を左に、下の女は右に。ふたつの顔を隔てるように横書きされたタイトルは、 『そこから青い闇がささやき』。 初めて目にする著者名だったが、その表紙だけで十分だった。詩の普遍と未知の異国性、ふたつの相反する力が苛烈に鬩ぎ合っているのを感じとるには。その夏、僕は生れて初めて外国の詩祭に参加することになっていた。旧ユーゴスラビアのマケドニアという国
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