書家の場合と同じく、駒師の「号」にも、なかなか味わい深い漢字が選ばれている。かつての名駒師で言えば、「龍山」「影水」「静山」など。現代でも優れた技を発揮して名品を作りつづけている駒師は多いが、それぞれが名乗っているみずからの「号」もまた、「富月」「秀峰」「天竜」「月山」「一舟」「如水」「雅峰」「酔棋」等々、美を追求する職人の矜持(きょうじ)にふさわしい、雅趣を感じさせるものばかりだ。 「盛り上げ駒」には見向きもせず、「彫り駒」にこだわって、そればかり頑固に作りつづけている「蜂須賀」という駒師がいる。本来、駒字を漆で盛り上げた「盛り上げ駒」のほうが、くぼんだ彫り跡の見えている「彫り駒」よりずっと高価である。なのに、多くの人を魅了しているこの駒師の「彫り」の繊細さ、完成度の高さのゆえに、彼の「彫り駒」は、ちょっとした「盛り上げ駒」と同じくらい、あるいはそれ以上の価格がつく。
![無月の譜:/116 松浦寿輝 画・井筒啓之 | 毎日新聞](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/8b6f8b74034c606f04bd8e9154b355d71b9bca00/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn.mainichi.jp%2Fvol1%2F2021%2F04%2F02%2F20210402ddm013070137000p%2F0c10.jpg%3F2)