暴動も起こさず、整然と列を作って並び、譲り合い、助け合う被災者の姿。命を顧みずに他人を守り、犠牲となった人々のエピソード。東日本大震災の直後、日本人の“美徳”は国内外から大いにたたえられた。 けれども、「これぞ東北人」「我慢強くて立派だ」などといわれると、ときどき強い違和感を覚えることがあった。 称賛の内容にではない。その先にあるものを見ようとせず、そこで“思考停止”してしまう近視眼的な見方についてだ。被災地の実態とは異なる“美しい虚像”が後ろにちらつき、居心地悪くなるのだ。 「津波と原発があれだけ騒がれて、よそからは『逃げておいで』と呼びかけられたのに、ほとんどの東北人は留まることを選んだでしょう。そこに日本人の気概を感じるよね」 ジャーナリストだというその人のキラキラした物言いに、背筋の凍る思いをしたことがある。いったい何を言ってるんだろう…と、耳を疑うより先に、全身から血の気