エピソード 1陸奥宗光に拾われるまで、不遇という言葉は彼のためにあるといっていいほど、 小村は絵に描いたように不遇だった。 彼は、父親から相続した多重債務と、わがまま美人妻のヒステリーと、外務省のリストラの三重奏をBGMに、酒を飲み女を買った。 いや、買ったというのは正確ではない。彼にはそんなカネはなく、いつも踏み倒したのだから。 雨の日には、傘がないから濡れて歩いた。 座布団が二枚しかない自宅に客が来てタバコを吸いはじめると、もらいタバコをうれしそうに吸った。 カネもないのに、同僚たちの飲み会に平然と参加し顰蹙を買った。 だがのち、このタフなふてぶてしさが小国日本のために生きた。 小村寿太郎の名は、今でも日本外交史上に燦然と輝いている。