お市は少しばかり焦っていた。 狼の仔の様子がどうにも良くない。 おっ母狼と白眉に囲むように温めてもらって、調合した重湯を少しずつ飲んでもらうのだが、吐き戻すし、体力が持つのかが不安なのだ。 なまじ、狼の仔の声が届くばかりに余計に心配になって来る。 夜の裡に藤次郎が到着し、夜通し二人で狼の仔の様子を見ながらも、若いお侍門馬兵庫之介の事を考えていた。 あのような見立てができる人はそうはいない。加減さえよければ直ぐにでも来て欲しい。 お市は薬草を手に、広がる青空を祈るような思いで見上げていると、姿が見えなくなっていたアオの声が、ぶるるるるっと聞こえた。 その後ハアハアと息も荒く、 「ご、御免っ。……も、門馬兵庫と申しますが……お市……さん……はこちらで」 兵庫之介の声がする。 お市と藤次郎は目を合わせて驚いた。 お市が頼んだわけでもないのに、アオが兵庫之介を連れてきたのだ。 アオが見知らぬものを