shikimotoeikiのブックマーク (8)

  • 第8話 お救い小屋の灯明は - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    お市は少しばかり焦っていた。 狼の仔の様子がどうにも良くない。 おっ母狼と白眉に囲むように温めてもらって、調合した重湯を少しずつ飲んでもらうのだが、吐き戻すし、体力が持つのかが不安なのだ。 なまじ、狼の仔の声が届くばかりに余計に心配になって来る。 夜の裡に藤次郎が到着し、夜通し二人で狼の仔の様子を見ながらも、若いお侍門馬兵庫之介の事を考えていた。 あのような見立てができる人はそうはいない。加減さえよければ直ぐにでも来て欲しい。 お市は薬草を手に、広がる青空を祈るような思いで見上げていると、姿が見えなくなっていたアオの声が、ぶるるるるっと聞こえた。 その後ハアハアと息も荒く、 「ご、御免っ。……も、門馬兵庫と申しますが……お市……さん……はこちらで」 兵庫之介の声がする。 お市と藤次郎は目を合わせて驚いた。 お市が頼んだわけでもないのに、アオが兵庫之介を連れてきたのだ。 アオが見知らぬものを

    第8話 お救い小屋の灯明は - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2022/02/19
    鳥獣指南に頑張る娘の少し不思議な物語。優しいお話は如何?
  • 第4話 弥太の世界  - 天衣の向こうに(しきもとえいき) - カクヨム

    助けを求めても傍には誰もいない。 独りは怖い。近くに命を喰らうケガレが居るかも知れない。 不安が大きくなってゆく。 弥太は半べそを掻いて、自分でどうしたらいいかすっかり分からなくなってしまい、薄暗い水の中でうずくまる。 その時何かが優しく、肩のあたりに背中の甲羅に頬にそっと触れた。 (落ち着いて。ほら周りをよく見て。ね) 「え?」 何か優しい声を聴いた気がして、誰かに優しく後ろから抱きしめられた気がして、不思議な面持ちで周りを見回す。 あるのは水の流ればかりで他にはなにもない。 そうだ。水だ。 周りは水ばかりなのだ。何をそんなに恐れることがあるだろう。ここは弥太のもっとも得意とする世界。水の中だ。 (ほうら、弥太は強い子) どこかで聞いた子守歌のような歌を不意に思い出し、 「そぉだよー、弥太はぁ強い子だよーぉ」 調子外れではあるが、勢いよく唄を歌い 命皿のふちをぴしゃんと叩いて目を閉じる。

    第4話 弥太の世界  - 天衣の向こうに(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2022/02/09
    癒しに溢れる和風ハイファンタジー どうでしょう?
  • 第3話 独り水の中で - 天衣の向こうに(しきもとえいき) - カクヨム

    弥太はもがいていた。周りは真っ暗で何も見えない。 躰の自由はきかず、粘っこい黒いものが覆い尽くして息さえままならない。 苦しい。苦しくてもがく。更に苦しくなる。 どうしようもない苦しさで、声にならない叫びで助けを呼ぶ。 お願い、お願いっ。何とかなんとかしてっ。 力一杯に魂を込めて、声にならない叫びを叫ぶ。 おいらは、おいらは……。 その時一条の眩い光が差し込んで―― 。 弥太は気が付いて目を開けた。辺りは薄暗い水の中だ。手足を放り出したまま、流れに任せてぼんやりと漂っていた。目がちかちかするし、頭はほんのりと痛むし気分も悪い。 「あれ? おいら……ここは何処?」 川に流され結座石の大岩を過ぎたあたりまでは憶えているが、瀧から落ちる時からの記憶が全くない。突然目の前が真っ白になって、そこから先はどうなったのかさっぱりだ。気が付いたらここに漂っていた。 ついさっきまで怖い夢を見ていたことはよく

    第3話 独り水の中で - 天衣の向こうに(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2022/01/28
    優しくて愛おしい大人向けのハイファンタジー(童話?)
  • 第2話 おつかわし屋の面々 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    街道沿いに建つ旅籠大椛と厩の脇道を奥に入った、大椛の裏側、山の裾野を見据えた場所におつかわし屋はある。 よろず鳥獣指南の看板が目を惹く、少しばかり変わっている馬借稼業であった。 旅籠大椛はお市の祖母照の辣腕ぶりにより、陣に軒を連ねる旅籠としてにぎわっているが、来の稼業は初代初次郎が始めた馬借が生業であり、それは今でも変わらない。 峠の道では重い荷を、馬に背負わせ牛に運ばせ難所を越える。砂糖に塩に醤油に味噌、反物から鉱石に至るまで、様々なものを運ぶ。 併せて荷を狙う賊を相手に守ることも請け負って、当然、気の荒い者が集まりやすく、喧嘩に刃傷沙汰なぞ当たり前のやさぐれた稼業だとみなされがちだが、おつかわし屋は其の真逆で、評判がすこぶるいい事この上もない、珍しい馬借である。 おつかわし屋は人は勿論、馬や牛まで、大事な荷物に気をまわすと評判を呼んでいるのだ。 利用した者達が驚くこと数知れず。 そ

    第2話 おつかわし屋の面々 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
  • 第41話 伝聞は伝えて聴いて書き奔り - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    「この山は昔から不思議な事が多いのじゃ。鳥や獣が田畑を全く荒らさないし、獣が人を襲ったどころか、道に迷ったものを郷まで送ってくれたという様な話には事欠かない。故にここいらの者は皆、山神様に頭を垂れるのじゃよ」 「へえ、そうなのかい。それでそれで」 熱心に話を聴きとっている旅装束の若い男は、矢立てを走らせながら、丁寧に古老の話を控えていた。如何やら几帳面な性格のようで、其の帳面には細かくて綺麗な文字がびっしりと埋まっていた。 「また、その山神様が霊験あらたかなことを為すったてぇ聞き及んだんだが、どうなんだい。爺様」 「あの山賊どもの話じゃろ。あれは山神様の真の御神威。何せ、攫われた娘っ子には傷一つ無く、山賊の頭は死んで、賊徒共は皆物狂いになったからの。悪い奴等だけに神罰が降っておる」 「代官所へ逃げ込んできた山賊どもの話はどうだい」 「あの話か。儂は実際あの時、代官所に、攫われた孫娘のお調べ

    第41話 伝聞は伝えて聴いて書き奔り - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2021/11/20
    獣の力を借りて困った人や獣を手助けする、お人好し美少女お市の話
  • 第37話 山の暗い吐息が降る - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    源太はおつかわし屋のあの憎たらしい娘の顔をを探して、一人一人じっくりと覗き込んでいた。 忘れるはずもないあの憎らしい顔は、攫って来た娘達の中に見当たらない。 無性に腹が立つ。 「何でぇ、居ねえじゃあねえかっ。化かされたのかっ、化物どもがっあああ」 荒々しく吐き捨てる様な物言いに、お花は目を合わせてはいけないと、顔を背けた。 源太は、もぞもぞと自分を怖れて動く若い娘の様子を見てご満悦となり、嫌がる若い娘の髪を引っ張り、しげしげと綺麗な横顔を見つめていた。 目を合わせようとしないお花に、益々ご満悦の源太は、うへへと怖気る様な声を出して笑う。 「てめえ、俺が怖いかぁ。娘。ほうれ。俺の面よく拝めっ。拝むんだよっ」 嫌で怖くてしょうがないお花は、感情も丸出しに顔を歪めた。 余りにも嫌がるその様に、カッと来た源太は、加減の無い平手打ちをお花へとらわした。 「んっんっ…」 猿轡をされ悲鳴も出せず、身を

    第37話 山の暗い吐息が降る - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2021/10/23
    可憐な少女お花に魔の手が迫る。縛り上げられ身動きできないお花は果たして?
  • 第1話  山神様は女の子 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    ひしひしひしひしと、宵闇が背中を追っている。 蒼と木々が生い茂り、更なる昏い影を投げ掛ける奥深い山の道なき道であるのに、小間物屋の茂平は息せき切って、音をなるべく立てないように走っていた。 早鐘の如く鳴り響く自分の鼓動が外に漏れ聞こえるのではないかと怖れながら、止まることなく只管速足で峠を下っていく。 しとどに吹き出し滴る汗を拭いもせず、背中の行李の重さも気にする暇もない。 峠とは言え、街道から大きく外れている獣道である。 仕入れに少しばかり手間取ってしまい、出立が遅くなってしまった。 それを取り返そうと近道を進んでいたのだ。 そしてあれに出くわしてしまった。 見かけた途端に出来るだけ音を立てず、急いで逃げた。 自分が居た事は多分気付かれているだろうが、何処に居るか迄はまだ見極められていない筈だ。 茂平はそう自分に言い聞かせつつ、萎えそうになる体と心に喝を入れ乍ら、足を動かし続けた。 見

    第1話  山神様は女の子 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
    shikimotoeiki
    shikimotoeiki 2021/10/15
    お市は獣と話せる不思議を使い、今日も人と獣を助けるために直奔る! 痛快江戸ファンタジー
  • 第35話 山の不思議と絡む因果 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム

    お市が薄っすらと意識を取り戻し、無理矢理に目を開けると、眼下に川の流れを見下ろしていた。 ゆらゆらと揺られながら、結構な速さでどこぞへと進んでいる。 「ぶるっ」 アオの声が聞こえる。 風が頬を打ち、馬のたてがみが鼻をくすぐる。 アオの背中で突っ伏しているようだ。 体はまだ満足に力が入らないし、呼吸も辛い。それでも肺臓は力強く息を吸う。 アオの足運びは、お市を落とすまいと慎重ではあるが、とても力強い。老骨の年寄馬とは到底思えない、力強さだ。 アオはいつも、お市のここぞという時には、必ず、お市の傍にあった。 お市が赤子の時から共に在り、お包み姿のお市を蝮から護り、幼き日、迷子になると迎えに行き、初次郎が彼岸に渡った時にも、片時も離れず傍にあったのは、アオであった。 お市のここが正念場という時に、その傍にいつも居る。 慰める訳でも無く、ただ側にいる。 それが、どれだけ心強く、どれだけありがたかっ

    第35話 山の不思議と絡む因果 - おつかわし屋事調べ 山姫さま、奔る(しきもとえいき) - カクヨム
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