漱石、中也、小林秀雄から大江健三郎、写真家畠山直哉まで、独自の美学を育んできた日本をフランス気鋭の批評家・小説家が見つめ返す――。「取り違えの美しさ」を読解の鍵とする、豊穣で刺激的な日本論。 白水社から出版された『夢、ゆきかひて』は、フランス人作家・批評家のフィリップ・フォレストが書いた日本(文学)論の訳書である。直接日本語で書かれたわけではないが、著者の意図が相当忖度されたと思われる翻訳書を見て読者が思うのは、まずもって、テクストに溢れる日本的情緒のノスタルジックな存在感であるだろう。たとえば「日本で、雪を再発見した。雪は、桜が開花してまもない都内のそこかしこの公園に、わけもなく降っていた」(100頁)などという文章には、小林秀雄の随筆を彷彿とさせるような気分が纏わっているし、実際、小林秀雄は本書においても重要な人物として扱われる。その重要性はノスタルジーと関連しており、それは本書のテー