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ブックマーク / yoghurt.hatenadiary.com (15)

  • 吉野家で祈る人 - 未来の蛮族

    ひと昔前、インターネットで、牛丼屋で「ごちそうさま」を言うとか言わないとかいう話でひとしきり盛り上がっていたことがあったようだけれども、 togetter.com おれは吉野家で祈りを捧げる人をみたことがある。 祈るといっても、まったく大仰なものではなくて、前に一瞬、軽く手を合わせただけ。ごく自然な動作だった。男性は現場帰りとおぼしき作業服姿で、年の頃は四十か五十、とにかく中年であることは間違いない。日に焼けた肌には、深いシワが刻まれていた。 そのささやかな祈りは、まったくの無言の中で行われたことだったし、無粋な単位で語るならば、せいぜい2秒か3秒くらいの間の出来事だったので、彼を見ていたのは、たぶんおれだけだったんじゃないかと思う。もちろん、何がしか神的な存在が彼の祈りを見届けていた、その可能性は否定できないものの、それを考えることはおれの手には余ることだ。少なくとも現世の基準において

    吉野家で祈る人 - 未来の蛮族
  • 最高の小説!/青沼静哉『モルトモルテ』 - 未来の蛮族

    早稲田文学6 特装版 作者: 青沼静哉,仙田学,間宮緑,多和田葉子,オルガ・トカルチュク,ニコール・クラウス,ドン・デリーロ,千野帽子,朝吹真理子,雪舟えま,松田青子,青木淳悟,福嶋亮大,黒田夏子出版社/メーカー: 早稲田文学会発売日: 2013/09/06メディア: 単行(ソフトカバー)この商品を含むブログ (11件) を見る雨や風が強く吹き荒れる日には、家に引きこもってを読んでいるのが一番いい。薄暗い部屋の中で、雨粒が窓を打つ音を聴きながらページをめくるのは、最高に心地よく、どれだけ遠くの街にでかけたってこれほど充実した時間を過ごすことはできないように思う。この間の台風のときは、ちょうど連休の中日だったので、来る嵐への備えを万全にすることができた。土曜には屋に行き、普段なら読まないだろう、というもいくつか買っておいた。一歩も外に出なくてもいいように、豚肉と海老を冷蔵庫に放り込ん

    最高の小説!/青沼静哉『モルトモルテ』 - 未来の蛮族
  • カフェでよくかかっているJ−POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生/渋谷直角 - 未来の蛮族

    帯には「誰かをバカにするマンガと思ったら大間違いだ!」という久保ミツロウ先生の力強いお言葉があるし、著者である渋谷直角氏はあとがきで「彼らに対して、こちらの何かの一つの価値観や上から目線をもって小馬鹿にしたり、それじゃダメだ、と断定して描いているのではなく」とはっきりと記していて、それはけっして嘘ではないのだろうけども、この作品を読んで感じたのは、やはり強烈な悪意、だった。小さな世界でもがくサブカル民を単に馬鹿にするのではなく、ある種の愛情をもって描いていることは、特攻の拓の天羽セロニアス時貞に匹敵するほど感動的な宮沢賢治使いをみても明らかなのだけど、散りばめられた固有名詞の群れからは、それを上回るほどの悪意を感じてしまう。 「バンプオブチキンと空の写真ばかりアップしているブロガーの恋」や「ダウンタウン以外のお笑い芸人を基認めていないお笑いマニアの楽園」は、そもそもタイトルに固有名詞が入

    カフェでよくかかっているJ−POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生/渋谷直角 - 未来の蛮族
  • 生きていくのはたいへんだ - 未来の蛮族

    生きていくのは、たいへんだ。 学生のころ想像していたほど、社会は厳しくなかったけれど、想像していたよりもずっと、おれには根性がなかった。 だからやはり、生きていくのはたいへんで、小説や、音楽、写真、漫画、そういったものはおれを助けてはくれなかった。 それは、彼らのせいではなくて、単に自分がそうしたものに救われるような種類の人間ではなかったということだ。 おれの父母は、この世の不正義にたいして、まっすぐに怒ることのできる人間だったけれど、おれはそうした人間でもなかった。 真・善・美のいずれにも興味がない。なにもかもがどうでもよいのだった。おれには損得勘定しかないのだった。 おれに心の平安を与えられるのは、預金通帳の残高だけであった。 しかしながら、意識の低いサラリーマンのであるおれの稼ぎでは、臆病なおれの心を安心させるだけの残高をつくることはできなかった。 株に手を出したのは、少しでも早く安

    生きていくのはたいへんだ - 未来の蛮族
    shimomurayoshiko
    shimomurayoshiko 2013/09/04
    「学生の頃想像していた程社会は厳しくなかったけど想像していたよりもずっと俺には根性がなかった。 生きていくのは大変で小説や音楽そういった物は俺を助けてはくれなかった」
  • 光、スローシャッター、四つの胃を持つ動物 - 未来の蛮族

    生まれ変わったら、何になりたい? そんな質問に、虎やライオンのような強い生き物の名を真っ先に挙げていた。 そんな時代がおれにもありました。 けれども、仮におれが虎やライオンだったとしたならば、その爪や牙の強さを持て余してしまうことは容易に想像できることですし、そもそも、生まれ変わったその先の世界でも、おまえは強いだ弱いだといった闘争をつづけなければいけないというのは、それが生き物のサガとはいえ、あまりにも空しきことでありましょう。 だからさ、おれはもう、牛でいい。 牛がいい。 草をむ。反芻する。 ただそれだけの機械でいい。

    光、スローシャッター、四つの胃を持つ動物 - 未来の蛮族
  • 子供の王国 II - 未来の蛮族

    "the jewish pentagram"の文字。でもユダヤの魔法陣ってこんなにトゲトゲ多かったっけ? 謎の詩。字体からすると魔法陣を記した人物の作品だろうか。 謎の詩その2。字体からすると(略)。なぜかid:delete_allさんのことを思い出す。

    shimomurayoshiko
    shimomurayoshiko 2012/02/14
    #ネヴァーランド
  • 子供の王国 - 未来の蛮族

    どうして、こんなことになってしまったのだろう。 この階段をみると、その疑問の答えも何となくわかったような気になる。おれには建築工学の知識が全くないので、もちろんこれは素人の印象に過ぎないのだけども、これでは全く強度が保てないのではないか。これほど頼りない階段をみたのは生まれてはじめてのことで、登っている間は全く生きた心地がしなかった。天井も、真横からみるとまるでウエハースのように薄っぺらい。こんな弱々しいものの上で、とんだりはねたりしていたかと思うと心底ぞっとした。そういえば、下の階には、人間の頭ほどのコンクリートの塊が転がっていた。ということは、それがいつおれの頭を直撃してもおかしくなかったってことだし、おれがいつこの屋根を踏み抜いてもおかしくないってことだ。 この建物のデザインは大変に素晴らしい。地形を活かして、建物の中に坂道があったりするところなんて最高に興奮する。どうってことのない

  • 酒鬼薔薇聖斗 - 未来の蛮族

    それがどれだけ印象的な事件であっても、卑劣な犯罪を時代の象徴のように扱うのは慎むべきだ。ともすれば、おれたちはオウム真理教が起こした事件を、流行歌のように懐かしく思い返してしまう。青春時代の映画のように、世代的体験として消費してしまう。おれだってそうした楽しさを知らないわけじゃない。「ああいえば上祐」という言葉を聞くたびに胸に込み上げる、このノスタルジー! けれども、そうして、我々が思慮なく彼らの名前を呼ぶたびに、彼らの名前は永遠に近づいていく。ある意味では、我々は彼らの犯罪に加担してしまっているのかもしれない。罪深いことだ。殺した人間のことばかり考えて、殺された人間のことを忘れる。罪深いことだ。おれにはそれがどのくらい悪いことかを説明することができそうもない。何だかんだいっても、おれたちは人を殺してしまったわけじゃないし。それでも、彼らの人殺しに少しでも心を楽しませてしまったのなら。地獄

    酒鬼薔薇聖斗 - 未来の蛮族
    shimomurayoshiko
    shimomurayoshiko 2011/12/16
    “馬鹿ばっかりだ、とおれは思った。もううんざりだった。罪のない人間を殺す馬鹿。それをはやしたてる馬鹿。この世には、馬鹿しかいないみたいだし、おれもそんな馬鹿のひとりかもしれないし。おれはこれからも、馬
  • バカが床屋談義して、何が悪いの? - 未来の蛮族

    バカな人間は喋ってはいけない。無力な人間は何もするべきではない。優秀な僕たちの邪魔になるからね。 これはおれの被害妄想である可能性が高いんだけど、どうもそこかしこでそんなことを言われているような気がしてならない。 バカと暇人のものであったはずのインターネットにまでこうした論理が幅をきかせるようになった気がして、おれはとてもさびしい。まあ、皆の言わんとすることもわからないじゃない。自分の専門分野で、まったく見当違いなことをわあわあ喚かれたら、うっとうしくもなるだろう。バカはたいていこれまで議論の前提を無視して話をはじめてしまうし、自分の感性に無意味な自信を抱いているもんだから、もう全く勉強なんてしないもんな。最近の世の中の動きからすると、バカが好き勝手に喋りだすことは「うっとうしい」を超えて「恐ろしい」の領域に足を踏み入れているような気もするし。 それで、みな「バカは黙れ」っていうわけだ。

    バカが床屋談義して、何が悪いの? - 未来の蛮族
    shimomurayoshiko
    shimomurayoshiko 2011/12/11
    “バカな人間は喋ってはいけない。無力な人間は何もするべきではない。それで、みな「バカは黙れ」っていうわけだ。 バカと暇人のものであったはずのインターネットにまでこうした論理が幅をきかせるようにな
  • 金沢、ひがし茶屋街 - 未来の蛮族

    ひがし茶屋街ではボランティアらしき男性がお座敷文化のことをいろいろと説明してくれたのだけど、何と言うかこう、独特な雰囲気を持った人だったね。良くいえば貴族的、悪くいえば高慢な感じでさ。「来であれば一般人は絶対に入ることはできませんよ」ってフレーズを十二秒に一回は話に織りまぜてくるわけよ。おれなんかは、ほら、労働者階級に属する若者だからさ。そういう話をきくとだんだんイライラしてしまったりするわけよ。でも、一方で、「もし家を建てることがあったら、この中庭の造りはぜひとも真似したいもんだなあ……」なんていうプチ・ブル的な心性を発揮してしまったりもして。 そんな日和った態度をプロレタリアートとしてのおれは許さないよね、当然。貧乏人が金持ちの文化に憧れたって空しいだけやろ的なことまでいいだしはじめるわけよ。そしたら、小市民のおれもさ、綺麗なもんを綺麗と言って何が悪いんやって反論するしね。お互い一歩

    金沢、ひがし茶屋街 - 未来の蛮族
  • レイシストの友人 - 未来の蛮族

    つきあいが途絶えてしまってもう長い年月が経つのだが、僕にはかつてレイシストの友人がいた。彼の差別対象は両手の指では足りないほど多岐にわたるものだった。 中国人。韓国人。ユダヤ人。女性。左翼。同性愛者。生活保護受給者。身体障害者。精神障害者。路上生活者。 まるで、自分と異なる属性をもった全ての人々が彼の敵であるかのようだった。 彼が沖縄人の僕を差別しなかったのは実に不思議なことだったが、いまとなっては何となくその理由がわかるような気がしないでもない。自分が攻撃対象ではないといっても、彼がところ構わず差別感情を撒き散らすのを見るのは、あまり愉快なものではなかったが、彼は友人としては、実に誠実な男であって、僕とのつきあいの中で、信義にもとるような振る舞いをしたことは一度たりともなかった。ユーモアの感覚にも優れていた。愛すべき点は確かにあった。 当時、僕も彼も学生で、彼は上野のコンビニエンスストア

    レイシストの友人 - 未来の蛮族
    shimomurayoshiko
    shimomurayoshiko 2011/11/20
    かっこよすぎて濡れた
  • 旅なんてしない人 - 未来の蛮族

    的に、おれは旅先での思わぬ出会いを喜ぶような人間ではない。もちろん、全く喜ばないわけではないのだけれども、最終的にはわずらわしいと感じてしまうことの方が多いのだ。大して興味のない話にほおほおと相づちを打つのも面倒だし、話が盛り上がったら盛り上がったで、今度は話を打ち切るタイミングに頭を悩ませることになる。 これはおれの経験則から言うのだけれども、そもそも、見ず知らずの人間に積極的に声をかけてくるような人間には、現役時代にテンプルを打たれすぎたような方も少なくない。 昔、オフ会で小旅行に出かけたときの話だ。おれたちは、真の天皇家を名乗る奇妙な男に絡まれ、小一時間ほど彼の偉大な念能力にまつわる素晴らしいお話を拝聴する事態に陥ってしまった。彼の念能力はおそらく操作系に属するもので、対象の血族(九代先の子孫をも含む)をまるごと発狂させるという、凶悪極まりない性能を持つのだという。彼の話そのもの

    旅なんてしない人 - 未来の蛮族
  • 東京の島々 - 未来の蛮族

    もしもビーチに出かけたいのなら、島の西側を目指すといい。民宿はだいたい島の東側にあることが多いから、あなたはちょっとばかり足をのばさなくてはならないかもしれない。といっても、なにぶん小さな島だから、自転車を借りればあっというまに島の反対側までたどりつくことができるはずだ。 海はよく透きとおっていて、砂浜からでも泳いでいる魚をかんたんにみつけることができるほどだ。火山性の島らしく、軽石がぷかぷかと漂っているのも面白い。砂浜の美しさもたいへん素晴らしいもので、砂があまりにもきめ細やかなため、一歩あるくたびに足がずぶずぶと沈んでいってしまう。ビーチサンダルでは満足に歩くこともできない。忍者が水上を移動するときに使うアレ、水蜘蛛が欲しくなる。 砂をすくってみると、透明な結晶が含まれていることに気がつく。まるで砂糖の粒のようにみえる。これも火山の影響によるものだろうか? 無学なおれには知る由もないが

    東京の島々 - 未来の蛮族
  • せめて、もっと人殺しの顔をしろ - 未来の蛮族

    TVでは、芸能人が我々に呼びかけている。「デマに騙されないようにしよう」ずいぶんと難しいことを言ってくれる、とおれは思う。デマに騙されようと思って騙される人間はいない。みな、正しいことをするつもりで間違えるのだ。 芸能人たちはこんなことも言っていた。「被災者の気持ちになって考えよう」確かにこれは大事なことだ。けれど、難しい。とりわけおれのような人間にとっては。おれは頭が悪いから、福島の原発について、土地を奪われた人間の気持ちをほんとうには想像することはできない。ただ、自分に置き換えて考えてみることしかできない。 もしも、自分の住む街に原子力発電所があったらどうだろう? 自分の故郷が、放射性物質に汚染されてしまって、二度と帰ることできなくなってしまったらどうだろう? しかも、その原子力発電所は遠く離れた東京に電気を供給するための施設なのだ。なぜ、自分たちだけが、東京の犠牲にならなければならな

    せめて、もっと人殺しの顔をしろ - 未来の蛮族
  • それからの十日間 - 未来の蛮族

    あの地震のあとには、あらゆるものの見え方が変わってしまった。というのはやはり言い過ぎで、変わるものもあれば変わらないものもある。今日の気分はどちらかといえば、変わっていない、という方向に流れているかもしれない。それでも、風のにおいや空の色は確実に変わってしまったような気がしているのだけども、きっと変わってしまったのは、おれの方なのだと思う。被災に遭われた方々のことを思えば、こんなのんきなことを記していくのはおかしいし、拙い上に何の実用性も持たないこの文章だって、電力によって記録され、送信されているのだから、ほんとうに申し訳ないと思うのだけど、最近のおれはよく空をみるようになったし、桜のつぼみが開きはじめたことにも気がつくようになった。 ▽ もちろん、それは地震から一週間以上経った今だから言えることだ。地震の翌日、3月12日には、ずっとテレビとネットを眺めていた。翌々日の3月13日もそうだ。

    それからの十日間 - 未来の蛮族
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